第一話「やってきたヒーロー」
−−主題歌−−
インサイト インサイト インサイト
インサイト インサイト インサイト
明日のために みんな 今を生きているんだ
苦しいこと 悲しいこと いっぱいあるけれど
そんなときこそ 空を見上げるんだ
太陽が 君を 元気づけるように輝いている
銀河の自然を守るため
太陽の光を受けて 緑化するんだ
インサイト インサイト インサイト
インサイト インサイト インサイト
宇宙特機インサイト!!
−−主題歌−−
都心から特急で四十分ほどのベットタウン。ベットタウンとしての宿命か、郊外型の店舗のみが繁盛し、駅周辺部を除くと空洞化が進んでいる。
その郊外型のショッピングセンターは、食料品衣料品を始め映画施設、カーショップなどが複合して並んでいる。
その中をショッピングカートを押す男。茶色の皮ジャンに青のジーンズ。そして皮ジャンと同色のブーツを履く。目鼻立ちは一見整っているが、よく見ると多少バランスが崩れている。二枚目と三枚目のギリギリ境界と言ったところだ。
カートには様々なテナントの包装紙にくるまれた商品が、盛り込まれている。ちょっとバランスを崩したら、すべてがそこらに散まかされてしまいそうだ
「なあ、まだ買うのか?」
そう言われて振り返ったのは、小さなハンドバック一つを手にした女性だ。
肩までかかるウェーブのかかった髪。ブラックジーンズと白いシャツを、身に付けている。そのさばけたファッションが、彼女の凜とした美しさを際だたせている。
「あたり前でしょ。
『特別機動官は赴任地の文化に溶け込み、違和感を与えてはならない』
宇宙特別機動官法、第3条にもあるでしょ!」
腰に両手を当て、幼子を諭すように言う。
「だからと言って、こんなに必要なのか」
小声で言ったが、彼女の耳に入っていたようだ。鋭い目つきで見つめられる。
それに気がついた彼は、カートを勢いよく押し始める。
「さあ! 次はどこに行くんだ?」
先ほど彼が文句を洩らしたときに比べ、1.5倍くらいに増えた荷物は、一台のカートに乗り切らずに二台に分けられていた。もちろん、二台とも彼一人で押している。
二人は屋上にある駐車場にやってきていた。そこに車を止めているのだ。皆買い物に夢中になっているのか、他には誰もいなかった。カートを車の傍に止めると、呆れたように彼が言った。
「この車に、これだけの荷物をどうやってのせるんだ?」
オープンの2シーター。しかもいくらFRとはいえ、トランク容積には限りがある。トランクに無理矢理詰め込むものの、まだ半分以上がカートに残っている。
「助手席にも載せればいいじゃない」
彼女はそういうと嬉々として荷物を抱えた。
「おまえはどうするんだ? 歩くのか?」
「あら。女の子に歩かせる気なの?」
彼はため息をついた。
右手の親指だけを立てて、自分を指して言った。
「俺以外に誰が運転するんだ?」
すると彼女は荷物をカートに戻し、腕組みをして首をひねり出した。
「うーん。どうしよう」
と、そこにオフロードタイプのバイク三台が、この屋上駐車場に上がってきた。不必要にアクセルをふかし、大きなエンジン音を立てている。そして、一直線に二人の所に突っ込んでくる。
「あぶない!!」
彼はそう言いながら、彼女を抱き寄せる。力を入れすぎたせいか、二人はバランスを崩し、ひざを突いた。そして、ほんの数秒前まで彼女が立っていた位置を、バイクが走り去っていく。
立ち上がった彼の目には、更にエンジン音をがなり立てながら、Uターンしてくるバイクが目に入った。よく見ると先頭の一台だけに人がまたがり、後ろの二台に無人だった。それでも、バイクはバランスを崩すことなく向かってきた。
あっと言う間に、目の前に迫ってくる三台のバイク。
「せいやっ」
短い掛け声と共に立ち上がった彼は、愛車のトランクを踏み台にして飛んだ。そして、鋭い蹴りを繰り出した。狙いは寸分の狂いもなく、フルフェイスのヘルメットに命中した。
その感触は重たく、人がかぶっているとは思えなかった。
その威力はすさまじく、ヘルメットを真っ二つに砕くほどであった。
ライダーの顔は、人間のそれではなかった。機械で福笑いをしたような顔。目のあるべきところにそれらしきものがなく、口のあるべきところ、鼻のあるべきところ、それらがすべて所定の位置にないのだ。崩れて配置されたそれらは、顔面に凹凸を作っているだけだったが、それでも不思議と何かの顔のように見えたのだ。
ヘルメットを砕かれたライダーは、そのまま出口の方に走り去っていった。
「ついに、現れたな」
彼の声はどこか弾んでいた。
軽くジャンプしドアをまたぎ、真っ赤なドライバーシートに身体をおさめる。イグニッションキーをすばやく回しスタートボタンを押すと、それに呼応するように自分の足先にあるエンジンがうなり声を上げる。
「逃がすかよ!」
そう言いながらアクセルを踏み、逃げるバイクを追い始めた。
「ドクター・ソアラ。作戦の方はうまく言っているのか」
生命感の全くない謁見の間とおぼしき空間。その一番奥に座するものが、低く無機質な声で言った。
名を呼ばれた彼女は、一歩前に出た。
真っ白の実験衣のようなものに身を包んでいる。彼女の髪の毛、眉毛、まつげ、そして唇。すべてが白色であった。肌の色までもが透き通るように白い。端正な顔立ちであったが、そこに温かみは全く感じられなかった。
「はは。いまだ宇宙特機の正体は不明でございます。現在しらみつぶしに、捜索はしているのですが‥‥」
そこまで言うと、彼女の後ろの列から一人が前に出た。
「そんなまどろっこしいことをする必要はない。一気に魔神化してしまえばよいのだ。抵抗するものは、今まで通り、切り倒してしまえばいい」
鈍い銀色の甲冑で武装した彼は、腰に携えていた剣を抜くと、力強く言った。その刀身は甲冑とは違い、複雑な色に輝いていた。多くの血を吸ったがゆえの輝きだ。甲冑の隙間から覗く身体は機械のものらしく、所々が光っている。
「黙れ。スープラ将軍。今まで我々が幾度となく苦汁をなめたのを忘れたのか!」
ドクター・ソアラが、猛々しい声を発した。
スープラ将軍は、少しも動じていなかった。
「だからといって、いつまでも手をこまねいていてはしょうがない」
言い争いを始める二人を、壇上のものが諫めた。
「黙るがよい。二人とも」
その覇気に黙らざるを得ない二人であった。
一瞬口を閉じたスープラ将軍であったが、再び口を開いた。
「私はドクター・ソアラとは別に、それとおぼしき人物を発見しました。このまま、私に作戦を実行させていただきたい」
「そなたは、いつも私の許可なく勝手なことをいたす」
彼の言葉を聞いたドクター・ソアラは、憤慨する。
「スープラ将軍。やってみるがよい」
「御意に」
壇上のものに頭を下げた彼だった。そして、振り返り謁見の間を出るとき、ドクター・ソアラを一瞥した。それに気がついた彼女は、苦々しく唇をかんだ。
−−アイキャッチ−−
爆風を背にインサイトブレードを構えるインサイト。その上空にやって来た、多次元航行艦NSX。
−−アイキャッチ−−
−−アイキャッチ−−
三次元飛行四輪S2000を駆るインサイト。S2000に備えられたスーパーレーザーは、敵の飛行艇を撃破している。
−−アイキャッチ−−
片側三車線の大きな道路を疾走する三台のバイク。それを追う黄色のオープンカー。
四台とも他の車の間を縫うように走る。小回りの効くバイクに離されまいと、懸命に車を操る。ほんの数センチの狂いが激突を招く、ギリギリの状態だった。
右手でハンドルをしっかりと握り、左手はシフトレバーに添えられている。右足はアクセルを踏んでいるが、時にはブレーキペダルを踏む。左足は、クラッチを巧みに制御している。
彼の車が他の車を追い越すと、大概クラクションを鳴らされる。しかしながら、前を行くバイクはどんなに他社と接近しても、平然としている。三台のうち二台は誰も乗っていないというのに。
(見えているのは、俺だけなのか?)
そんな思いが彼の頭をよぎる。
ほんの少し気をそらしただけで、先程より離されてしまった。彼はアクセルを深く踏み込んだ。
心地よいブレーキ音と共に、彼の車は停止した。
車から降りた彼は、辺りを見渡す。バイクを追いかけているうちに、採石場にやってきてしまったようだ。両足を開き、油断なく気を張る。
すると、山の一番上に先ほどのバイクが現れた。むろん、先頭にしかライダーはいない。そして、その隣りに銀色の全身甲冑らしきものが見えた。
「何者だ!!」
彼は叫んだ。すると甲冑、スープラ将軍は、くぐもった声で答えた。
「お前が宇宙特機だということはわかっている。ニリン・マシンよ。やってしまえ!!」
剣で彼を指している。
その命令と共に、ライダーは咆哮を上げる。すると、三台のバイクと一人のライダーが、身の丈二メートルほどの一体の魔神獣へと融合した。
脚部についた大きな二つの車輪で、斜面を猛スピードで降りてきた。その勢いのまま彼に迫ってくる。
しかし、彼は動じることなく、一声叫んだ。
「緑化!!」
すると彼の身体は、緑色に光輝き出した。その光は飛び上がり、スープラ将軍とは反対側の頂きに達する。輝きが収まるとそこには、深緑と茶褐色に彩られたバトルスーツに身を包んだ彼が立っていた。
右手はL字に構え、左手はまっすぐ前方に伸ばし、左足に重心を移し、右足は自然に伸ばし、ポーズを決める。
「宇宙特機インサイト!!」
彼、宇宙特機インサイトは叫んだ。陽光を受け、凜々しい姿が浮かび上がる。
そう。彼は宇宙特機インサイトだったのだ。では、ここで緑化のプロセスを説明しよう。
両足を大地につけ、両手を太陽にかかげて、キーワード「緑化」と彼が叫んだとき、多次元航行艦NSXが太陽光を集積し、彼に照射する。
膨大な太陽光のエネルギーは、彼の体内に存在する葉緑細胞に送られる。葉緑細胞は大気中の元素と大地の元素から、グリーンメタルを精製し、インサイトのバトルスーツを形成するのだ
「ついにしっぽをつかんだぞ。魔神王プリウスの手下め。イーシューター!!」
言いながら、腰からイーシューターを引き出し、スープラ将軍の足元を狙って引き金を引いた。
「くっ。ニリン・マシン。後は任せたぞ!!」
それに答えるように唸ると、ニリン・マシンは再び動き出した。
「インサイトキック」
掛け声と共にインサイトは崖から敵を目がけて、飛び降りた。
その蹴りは、ニリン・マシンの脳天に突き刺さる。
「ぐがあ」
叫びながら、インサイト目がけて腕を払う。辛うじて右手でそれを受け止めるインサイトだったが、その勢いに弾き飛ばされる。一回転して態勢を立て直すと、再びイーシューターを放つ。
緑色の光線が、ニリン・マシンの肩口に迫る。しかし、それをうまく避ける。
その間に立ち上がったインサイトは、右腕を一度胸の前に持っていくと、それを体側に勢いよく振り下ろした。すると、その手にはインサイトブレードが現れていた。
それに応ずるかのようにニリン・マシンの両腕が、鋭く変形する。
「でやっ」
気合いと共に、切りかかるインサイト。右に左に切りつける。その激しさ、速さに、ニリン・マシンは徐々に押されていった。
「魔神空間を発生させよ」
謁見の間の一番奥で声がする。
「魔神空間発生機関、作動!!」
ドクター・ソアラの声が響く。すると彼女の二人の助手、レビンとトレノが動き始める。謁見の間に備えられた機械が作動し始める。そこここで、様々な色の光が明滅し、様々な作動音が聞こえてきた。
採石場では、大地の内側から割って出るように、灰色の機械のようなものが現れてきた。
そこはあっと言う間に機械に囲まれた空間に置き変わった。真っ暗な空でさえ、作り物のように見える。
もちろんその場にいたインサイトとニリン・マジンも魔神空間に取り込まれている。
魔神空間は無限に存在する多次元平行宇宙の一つだ。通常は地球が存在する宇宙とは接することはないが、魔神王プリウスの力によって、空間が確立される。
この魔神空間では、魔神獣は通常の五倍の力を持つことになるのだ。
すると、途端に形勢を盛り返すニリン・マジン。それまで、インサイトブレードを受けるのみだったのが、二刀流を活かしスキを突いて、インサイトの右腹部を切り裂いた。
バトルスーツ内部を流れる琥珀色の循環液が飛び散る。
後ずさりし間合いを取る。インサイトブレードを右手で眼前に水平に構え、柄の部分に左手を添える。
「グリーン・ブレード!!」
左手を刀身に沿って切っ先まで動かす。それと共に刀身は深緑の輝きを見せる。
ニリン・マジンはそれに臆することなく、自分の優勢を信じて、切りかかる。切れ味の増しグリーン・ブレードなった今、全く敵ではなかった。あっと言う間に、両腕を落とされる。
「インサイト・スラッシュ!!」
両手でグリーン・ブレードを握り、右上段から左下段まで、袈裟斬りにする。その勢いのまま、ニリン・マシンに背をむけ、左手だけでグリーン・ブレードを握り流れにまかせて振り切り、天を指す。
静止したインサイトとは正反対に、ニリン・マシンはまだ動いていた。二、三歩、足を進めると、体内のエネルギーが行き場を失い、爆発となって現れた。
戦い終えて多次元航行艦NSXに戻ったインサイトは、むくれた顔の彼女に迎えられた。
二人ともクルースーツに着替えている。白を基調とし、袖口や胸元に緑色でアクセントを入れてあるワンピースタイプのスーツだ。
「いくら何でも、置いていくことないじゃない」
「まあ、そう言うなよ。ニニー。これから一緒に働く仲間なんだから」
「もう。しょうがないわね」
二人は笑いながら、握手を交わした。
−−主題歌−−
遠く故郷から離れた この惑星で
悪の組織と戦うため
多次元航行艦NSXを 基地として
三次元飛行四輪S2000で 縦横無尽に駆け巡れ
イーシューターで 敵を撃ち
インサイト・スラッシュで 敵を切り裂くんだ
そして 愛する者の 傍らで
束の間の休息を やすらぎを味わうんだ
−−主題歌−−
0 件のコメント:
コメントを投稿